今日もケガなく
帰ってきてくれたら、ほっとする。
車両基地と言うが、電車にとって、ここは家のようなもの。
仕事を終え、何事もなく帰ってきた電車たちに
心の中で「おかえり、お疲れさま。」と声をかける。
走り過ぎてどこか調子が悪くないか。傷んだ部品があれば交換して休んでもらう。
電車が発する音は、声。「あれ?どこか違うな」
ずっと向き合っていると音の違いで電車からのメッセージを理解する。
私も少しは君の気持ちが分かるようになってきたかな。
お互いに何も言わないけど、心の中でいつも繋がっている。
家族のように。
電車が何台も収まる大きな車両基地。普段は見ることのできない大きな空間の中で、電車と向き合い、ひたむきに作業する整備士の後藤さんの姿は、印象深く心に残る光景だ。声には出さないが、「整備した車両が明日も無事にお客さまを届けますように」といつも思いながら、丁寧に経験を重ねている。
車両整備という仕事。
車両整備に必要な事務管理をしています。以前は電車のブレーキや扉の開閉に使う空気を作る装置やブレーキをかける部品の整備を行う職場にいました。現在は、主に装置、部品の発注や更新管理、故障時の対応、決定した故障対策の進捗管理などしています。電車を運行するにあたって、電車を停止させる大切な部品を整備し、管理をしているので日々、気を引き締めて業務にあたっています。
目で見てもわからないところは、音で感じる。
手と目と耳でひとつひとつ確かめる。
ボルトが緩んでないないか、金属部に亀裂がないかを叩いて点検します。もし亀裂が入っていると叩いた時の音が違います。目視だけでは気づきにくい部分は、音で聞き分けて車両に異常がないかをチェックしています。
仕事ぶりは、整備したモノが
伝えてくれる。
整備士として誰かの役に立ちたいと思っています。整備は裏方の仕事です。車両基地で働くので、お客さまと直接お話をする機会はありませんが、私たちは整備を通して、「当たり前の安全」というメッセージを常に届け続けたいと思っています。自分が整備や修理を手がけた車両の部品が、今日も電車の一部として安全に作動し、何事もなくお客さまを送り届ける役目を果たす。車両のひとつひとつの部品もまた私たち整備士と同じように車両を支える裏方として電車を動かす力となります。ひとつひとつ地道な作業ですが、電車を動かす一員として、とても重要な責務だと実感しています。
部品への愛着は、安全性にも繋がっている。
電車の部品に対しての愛着があります。自分が整備した部品が点検などで戻ってきた時には、「おかえり」という気持ちになります。よく無事に故障することなく、戻ってきたなと思えます。たったひとつの部品でも、電車を動かすための一員です。小さなことかもしれませんが、ひとつひとつの点検の積み重ねと部品に対する丁寧な仕事が、電車を安全に走らせるために大切なこと。自分が手がけた部品が何事もなく戻ってきた時には、やはり、達成感があります。
整備士は扉やブレーキ、モーターなどに使用するひとつひとつの部品を分解して定期的に点検する仕事。そこには、毎日を安全に走らせるための職人としての誇りがあり、それは結果として電車が毎日何事もなく走るということに繋がっています。整備士の丁寧な手仕事は電車が安全に動くという結果として表現されています。
整備するということは、どの車両にどの部品が
必要かを把握することでもある。
部品は、車両によって異なります。基本的には、分解して中身をチェックして、メンテナンスします。部品はあらかじめ、整備された予備品がたくさんあります。整備していたものを車両につけて、使用後の部品をおろしてまた整備をし、試験を終えた部品をストックしていくという流れです。
大きな車両を扱っているということを、
工具の大きさや部品の数からでも実感する。
入社した当初は、電車に使用する部品の数や工具の重さに驚きました。何にどう使うか分からない特殊な部品が多く、はじめは戸惑いましたが、先輩たちから教えてもらいながら作業をしていく中で、いろいろと憶えていきました。整備には工具は欠かせません。電車のボルトを締めるための工具は、1キロくらいの重さがあります。作業の中で必要なものでも、市販にない場合は西鉄電車用として、自分たちで工具を作ることもあります。
重さが1kgほどある工具。
車両基地。という名にふさわしいスケール。
何台も西鉄電車の車両が入る大きさ。まさに電車のガレージとも言えるこの車両基地は、流石にスケールが違う。鉄、油、ペンキの匂い。作業する人たちの息吹。それぞれのセクションで職人たちが仕事をする姿は、何も語らずとも伝わるものがある。ネット社会において、パソコンやスマホと向き合うことが多い中、電車の部品と向き合い、ひたすら作業に没頭するその姿は仕事としての原点を感じる。
摩耗を常にチェックする大切さ。
乗り物全般に言えることですが、ブレーキをかける際には必ず摩擦が生じます。早いスピードを止めるということは、ブレーキに関わる部品に大きな負荷がかかるということです。安心・安全のために、電車の様々な箇所の摩耗チェックは欠かせない業務です。例えば、電車の屋根にとりつけてあるパンタグラフ(架線の電力を導き入れる装置)のメンテナンス。電線と接触する舟体と呼ばれるパンタグラフの一番上の部分は取り外しが可能です。舟体を固定せず、取り外せる事で、すぐに新しい舟体と交換できる利点があります。
パンタグラフ(架線の電力を導き入れる装置)のメンテナンス
毎日の小さな作業の役割は大きい。
潤滑油はとても大切。きちんと油を差しておかないと、部品の働きが悪くなります。もし、一箇所でも極端に摩耗が激しいところがあると、そこから故障などの原因になります。結果、作業する時間が増えたり、大きな部品を変えるなどのコストもかかるので、油をさすという小さな作業ですが、電車を故障させず、お客さまを安全にお運びするために重要な作業です。
整備とは、細やかな積み重ねで、電車を動かす大きな力。
工場を覗けば、大きな車体を動かすために、ひとつひとつの部品が支えとなり動かしていることが実感できる。様々なセクションで作業する整備士の方々の眼差しは熱い。電車の部品には大小合わせて、何万という数がある。どの部品がどの電車のどのパーツのためにあるのか。それぞれの車両ごとに異なる部品をまずは憶えることから始まる。自分の手で作業の感覚を覚えながら丁寧に正確に整備を行い、電車を送り出す。モノによっては、1mm単位での細やかな仕事が続く。神経を研ぎ澄まし、集中しながら作業を行う。目で見て、音を聞いて、感触を確かめながら、積み重ねた技術が電車にとって、毎日を支える安心感へとつながっている。
整備士 後藤さんのコラム
年月よりも走行距離で
電車の引退は決まる。
電車はどれだけの距離を走ったかで、その電車生命を決定します。見た目では走れるように見えても、中身がもう限界まで全うしている場合があります。1989年のアジア太平洋博覧会に合わせて製造された特急の8000形が2017年に引退する時は、お客さまから「残して欲しい」というお言葉をたくさんいただきました。そういったお客さまの声は、整備士としても励みになります。お客さまと直接対話することはありませんが、電車を通して、気持ちを通わせている感覚があることは、とても嬉しいことです。
滑り止め防止のセラミック粉。
雨の日は、晴れの日よりも電車が止まりにくくなります。3000形、7000形の車両には、雨の日のブレーキ対策として、滑り止めのセラミック粒子を使用します。ブレーキをかける瞬間に自動的に噴射させて滑りにくくするものです。この滑り止めの粉は、以前受験シーズンになると販売していた合格祈願切符の特典として付けていました。
動かないよりも止まらない方が恐い。
整備士として配属されてから、数ヶ月たった頃、小雨が降りしきる中、車両整備のために車庫内で電車を運転していたのですが、雨の影響で本来の停車位置に停止できないのではないかと、ヒヤリとしたことがありました。電車は動かないことよりも、止まらない方が恐い。そのことを実感しました。多くのお客さまを安全に届けるために、ブレーキに対する点検や修理は念入りにしています。
プライベートでも電車に乗っていると
その電車の機器や装置が気になる。
旅先で乗る電車では、車窓からの景色以上に車内に興味が湧きます。備え付けの機器を見たり、扉の開閉機器はどうなっているかなど、ついつい細かい部分を観察してしまいます。最近一番気になったのは、東京の電車です。特に山手線は最新の機器が使われているので、目線がそちらばかりに奪われて仕方ありませんでした。
向き合ってきた
時間が、会話になる。
家族みたいに。