ユニフォームが変わっても、
野球部での大切な言葉は
電流のように私の中を流れている。
頼まれ事は、試され事。
高校時代、野球部の監督がよく言っていた言葉だ。
頼まれた事で、人は試されている。この教えが、今となって胸に響いている。
どんな仕事でも試されていることを忘れずに、責任を持ってやり遂げること。
私が扱う電力は、毎日、何万人も乗せて走る電車を動かすためのエネルギー。
スイッチひとつの操作も、ミリ単位の摩耗から発生する架線の補修作業も、
気を抜いたら電車の運行に影響する。ひとつひとつが慎重な作業だ。
仕事帰りの朝の電車。ラッシュの慌ただしさが、疲れた体には応えるけど、
それ以上に電車がいつも通り走っているのを見ると安心する。
「今日の仕事もよくやった。」
走る電車が1日の仕事ぶりを評価してくれているようだ。
電車のエネルギー源である電力を司る変電所。スイッチひとつで駅と電車の電力を供給する重要な部署。
大きな電力を扱う仕事なのでひとつ間違えれば事故や大怪我に繋がる。いろんなプレッシャーや責任はあるが、それを感じさせない明るい笑顔でインタビューに応えてくれた電気部の木原さん。23歳、入社6年目の期待の若手。電車を動かす大きな力と向き合いながら、日夜、懸命に働いています。
電車を動かすエネルギーを
維持・管理する仕事。
電車を動かすためには、もちろん電気が必要です。発電所で発電された電気は、送電線を通じて変電所に送られます。 変電所は、いわゆる電車を動かすためのエネルギー拠点です。変電所では、受電した電気を変圧器や整流器を通じて電車の運行や駅の設備に適した電圧に変換し、供給します。私の部署では、電線や変電所の設備点検や補修作業、機能維持するための管理を行っています。電線路の点検や補修作業は、電車が走っていない夜間(25:00~4:30)に行い、各所の設備に異常がないかをチェックし、日々安全・安心に電車が走れるよう務めています。
電車を動かす電力は、直流1500ボルト。
日常生活で利用する乾電池は1.5ボルトなので、1000倍のエネルギーで西鉄電車は動いています。福岡県内で、14の変電所があります。スイッチひとつで、福岡県の各ブロックエリアに電気を流す、電気を止める機械をメンテナンスするという重要な業務です。
この線は、人と電車を繋いでいる。
電車を走らせるために重要なトロリ線。
人間で言えば、動脈のようなもの。
みなさんが電車に乗る際に見ている電車の上を通っている電線。この電線のことをトロリ線と言います。トロリ線は銅でできています。銅は抜群の導電性があり、柔らかく加工性に優れているので電線としては最適で丈夫な金属です。とは言え、大きな電車を動かすためには、大きな摩擦がかかりますので、定期的な点検が欠かせません。電車は、パンタグラフ(※1電車の真上に取り付けてある電気供給装置)とトロリ線が接触して動く仕組みになっています。毎日毎時、電車は走っているので、摩擦によりトロリ線が少しずつ擦り減っていきます。摩耗が早く進む場所については年に2回、張り替え作業を行います。私たちの仕事にも様々ありますが、トロリ線を張り替える工事がその中でも大きな仕事になります。トロリ線の摩耗は、特に駅構内が大きいです。これは駅に到着する際のブレーキによるものです。トロリ線は直径約12mm。それが10mmになると張り替えの計画を立てます。作業や点検を毎回しているとその2mmの摩耗が何mも離れたところから見ても感覚的に分かるようになります。大掛かりなところでは、400mの線を張り替える作業がありますが、それを夜間の3時間、10人ほどで完了させます。始発には電車が走るのでスピードと正確性が必要です。
※1パンタグラフとは、電車の真上に取り付けてある電気集電装置。線路の真上にある給電用の電線(トロリ線)とパンタグラフが接触することで、車両に電気を取り入れ電車が走る仕組みになっている。
毎日、何万人も乗せて走る電車を
動かすための大きなエネルギーを預かる責任。
電線工事中の夏は、駅員の方は我慢の時。
作業中は停電した状態で行いますので電車は動きません。大変なのがその周辺の駅です。乗務所がある駅は別のところから電気を供給できるところもありますが、基本的に夜間の電線工事中は、駅での電気が使えません。真夏の時期、駅に宿泊している駅員の方々は大変だと思います。いろんな人の協力を得て作業をしていますし、何よりも安心して電車に乗っていただくための大切な業務なので、従業員の皆さんも理解してもらっています。
従業員の相棒。西鉄電車の安全を支える黄色い作業車。
トロリ線の張り替えなどの補修作業には黄色い車が活躍します。通称、架線車と呼びます。電気補修工事では、電線まで高さがあるので架線車に乗って電線チェックと張り替え作業を行います。線路の上での作業になるため、油圧操作で鉄輪(線路を走るための車輪)が出るようになっており、道路と線路を走ることができる両用車です。線路の上をゆっくり走らせながら、トロリ線に問題がないかをくまなくチェックしています。
電気と向き合う仕事ですが、人と向き合うことも大切です。
23歳ですが、今年で入社6年目です。職場では中間の立場なので、上司にも後輩にも積極的にコミュニケーションをとっています。高校時代は、野球部のマネージャーだったのですが、マネージャーは、監督やチームひとりひとりとのコミュニケーションが大切です。そういう部分で、今の仕事でもマネージャーの経験が活かされてると思います。私はもともと人と話すことが好きということもありますが、仲間と会話をすることで、職場の空気も良くなるし、頼まれたり、頼んだりしやすい。細かいやりとりが、ミスを起こさないためにもなるし、安全性の面でも役に立つと思っています。
頼まれ事は試され事。私にとって大切な言葉です。
高校の野球部の監督からは「頼まれ事は試され事」という言葉をもらいました。「頼まれた事は全力で尽くし、ノルマ以上に迅速に他人の予想を上回る『考動』を取る事。いつも、誰かに試されている」ということをよく言われていました。電力での点検作業は気をぬくと大きなトラブルになる可能性があるので、頼まれたこと、任されたことは一生懸命にきちんとやるように心がけています。
休日でも、悪天候などの
影響で出社することも。
安全には変えられません。
休みの日に急に電話がかかってきて、出社する場合もあります。事故や天候悪化によるものなど様々な理由はありますが、何か急なアクシデントがあった場合は、早急に変電所の機械に不具合が出てないか、電線に異常はないかをチェックします。台風が過ぎた後は、電線にビニールなどの飛来物が引っかかっていることもあるので、点検作業を行います。西鉄電車では安全を第一に、お客さまへのご迷惑をできる限り最小限に抑えたいという思いで、台風や大雨などの自然災害時の際は災害が発生する前から待機の指示がある場合もあり、災害発生後に備えた動きができるように心がけています。前もって情報が分かっている場合は、休みの時でも緊急連絡が入ることを意識しています。
動物が電車をストップさせる原因になることも。
以前、甘木線で蛇が電線に絡まったことが原因で漏電の恐れがあるため、停電をさせて撤去作業をしたことがあるとか。これは珍しいケースらしいが、動物が線路内に入ってトラブルが起きることがあるそうだ。自然災害もそうだが、トラブルは突然やってくる。休みの日でも緊急のため復旧作業に急遽呼び出しがかかることもしばしば。まるで何事もなかったかのように対応する作業員の方々の務めにより、安心して電車に乗れていることを改めて感じた。天候の影響などで電車の遅れがあるが、その裏では様々な部署の多くの人たちが早急に、懸命に動いている。
電力保守係 木原さんのコラム
みなさんにとっての1日の
始まりは、私にとって
1日の終わりです。
電線の点検作業は、深夜に行います。始発の電車から問題なく、安心して乗ってもらえるように、電車が動かない夜間に作業して1日の始まりに備えます。変な感じですが、皆さんが会社や学校へ向かうために乗っている朝の電車で帰宅しています。電車に乗っている時は、何事もなくいつものように電車が走っていると安心します。私たちの仕事の中心はとにかく当たり前に電車に走ってもらうこと。電車が安全に走っていることを確認して夜間作業の1日が終わります。
日頃から癖になっている指さし確認。
変電所の巡回は2人で行います。ボタンひとつでも、押し間違えたり押し忘れたりすると、電車がストップしたり電気が供給できなくなり、お客さまへ多大なご迷惑をおかけしてしまいます。ひとつひとつの工程には、2人で必ず指をさしながら「○○、よし!」と声を出して確認します。そういうことを1日の中で何度もやっていると、家の中でも癖がついてしまいました。例えば、家の玄関を閉めた後、ドアを引いて鍵がかかっていることを確認したら、指をさして「よし!」と思わず言ってしまいます。
電力は、私たちに
とって伝力。
「今日も安全」という
結果がすべてを物語る。